白い線を解明してみよう

 
 

 広角系のレンズで、前群レンズの円周上に沿って白い線が入っていることがよくあります。特にD15/3.5、F-D16/2.8、D18/4、D25/2.8、D28/2、D35/1.4など、前玉の大きい広角でしかもドイツ製の古いロットに多く見られます。「前玉の縁が白くなっていますが、写りに問題がありますか?」という質問を高い頻度でお受けします。「これはバルサム切れですか?」とも聞かれますが、よく”バルサム切れ”と呼ばれるレンズ間の接着剥離と間違われますが実は異なります。
 バルサム切れとは2枚以上の複合レンズユニットが存在する場合、接着剤でレンズを圧着しますが、経年変化により接着面が化学変化してクモったり変色したり等することです。バルサム切れが起こりやすいのはS-P60/2.8(4枚目と5枚目の間が油を垂らしたような感じに光ります)、VS28−85(5枚目と6枚目の間が油を垂らしたような感じになります)以上の2本です。極稀にP50/1.4MM(4枚目と5枚目の間がクモリます。AEにはあまり出ません)もあります。もともとツァイスのレンズはバルサム切れは起こりにくく、そうそうは発生しません。特に間違えやすいのはD35/1.4です。まずドイツ製の5枚目周辺部がクモリやすく、5枚目と6枚目に絞り作動用のオイルの飛沫が飛んで水泡に見えることもあります。この症状がよくバルサム切れと間違われます。おおよそオーバーホールで解決できますが、オイルを垂らしたように見える6枚目のコーティングの変色はレンズ交換しか手が無く、ドイツ製であれば交換用のエレメントは本国に送らないと手に入りません。
 さて、話を元に戻しましょう。例の円周上に入る白いスジは一体何なのか、サンプルのエレメントを見ながら紐を解いてみましょう。

 上の写真のような症状がよく見受けられます。しかし、これだけ見ても一体どういうことなのか分かりませんね。下の写真を見て見ましょう。上の写真のエレメントを側面から見たものです。レンズの側面には内面反射を少しでも防止する為、レンズの側面に墨塗りをします。これを一般的に”コバ”と呼びます。
 下の写真を見て分かるように側面の”コバ”が剥がれてしまっています。これは長い年月により塗料自体が弱くなってしまうからです。古い自転車や船舶などで、塗料が傷んでいて触るとパリパリ剥がれてしまうのを見た経験は皆さんもあるでしょう。側面の剥がれた部分が屈折率の高い広角レンズの球面に反射して、上からレンズを覗き込むと上の写真のように見えるのです。古いレンズの中にはチリがよく混入していますが、黒いチリのほとんどがこのコバの剥がれたものです。

 下の写真が状態の良いレンズのエレメントです。このコバ剥がれのあるレンズを機械的に測定すれば、内面反射率の上昇がややあるかもしれませんが、写りには全くと言っていいほど影響しません。オーバーホールに出しても、エレメントを交換する以外に手はありません。ヘリコイドが緩かったり、無限遠が出ていない場合はともかく、もともと塗料が傷んでいるので、エレメントを取り出せば多少なりとも塗料が剥がれるリスクがあります。必要が無い場合はメンテナンスも避けたほうがいい場合も時にはあります。「私は写真の腕が立つから、これくらいのハンデがちょうどいい・・・」なんて、気持ちに余裕を持ちたいですね。

 

 

 

 

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